地域のサイクルツーリズムを見渡す・考察する ─ 後編


前編 に引き続き「サイクルツーリズム」について能書きを垂れる。

前編では、サイクルモードにフォーカスして、全国各地の自転車観光事例や温度差みたいなものを紹介した。

後編では、サイクルツーリズムの内容や、在るべき理想についてピントを当てていきたい。

 

1. 季刊誌 “cycle”


自転車に関連するカバー写真も楽しみのひとつ。| via. cycle

季刊誌 〝cycle〟は 京都・大阪・神戸 を中心に自転車カルチャー「文化系自転車乗り」をコンセプトに情報発信するフリーペーパー。

レースやスピード嗜好ではない、自転車を通じて見たり・感じたりする暮らしの一時モーメント、生活に寄り添った自転車シーンに重点を置いているスタイル。年4回発行。フリーペーパーなので、配布店 で無料で入手できる点も有り難い。

 


Shimanoが出してる“Cycling good”でのcycle取材誌面。

企画・発行・編集は、杉谷紗香さんが代表を務める piknik が行っている。

詳しくは、Shimano が発信してる Webマガジン で特集されているのでそちらをご参照どうぞ↓

 

自転車メディアは、「レースやスピード嗜好」に重点を置いた情報が多くを占める。

ちょっと前は『スポーツタイプ自転車=ロードバイクを購入する → 速く走れることに感動してトレーニングしてレースに出てみる。』というパターンが常態化していた。世間からの認識もそんな感じだった。「高い自転車買うのはレース指向。日常的の使い方なら安いので十分。」

だから求められる情報もレース向けだったわけだけど、近頃はまた違う流れが出てきている。それが「自転車を通して得られる自然や地域への触れ合い」だ。

「グラベル」と呼ばれる、山や森の中を走り回るアクティビティが話題にされることが多いけど、
サイクルツーリズムでは、季刊誌cycleが発信する日常の延長線にある ちょっとした探索・冒険・旅 といった要素がメインに据えられる。

格段 目新しいことではないけど、スマートフォンやテクノロジーの発達が、自転車チャリンコアドベンチャーの促進に寄与していると思う。マップアプリしかりeバイク電動しかり。

これまでのバックナンバー。ミッフィーのときはロゴがオランダオレンジ。| via. cycle

 

2. ライドハンターズ

ルーツ・スポーツ・ジャパン が企画・開催するサイクリングイベント。

ライドハンターズ・・・聞き慣れない言葉だけど「オリエンテーリング」や「ロゲイニング」と内容は類似。徒歩で移動していたものを自転車チャリンコに置き換えただけ。自転車版のスタンプラリーみたいなもんだ。

規模や開催実績だと、ライドハンターズ運営が勢いあるけど、各自治体ごとで企画して開催しているイベントも多数ある。

この企画の良いところは、ポイントを競い合うために地域のスポットを網羅的に巡礼させられること。

「競争・・・なんかヤダな。」と思う人もいるだろうけど、目的がないままスポットを巡っていくのは熟練者の心持ちが必要になる側面もある。
御朱印集めやファン作品の舞台探訪、ポケモンGOなど、“脈絡ある理由” があったほうが疑問に思わずことを実行できる。

「クルマというものがあるのに、なんでチャリンコで汗水垂らして坂登ってるの?」ってツッコまれることが多くのローディの恐怖です。

運営元ルーツ・スポーツ・ジャパンは、サイクルツーリズム事業の大手。引用▶ RSJ

問題点を覆す工夫

問題点は「参加者との競争」が起きてしまうこと。

ゲーム性を求めれば、競争や比較が起きてしまうのは仕方がない。それがゲームというものだ。だけど「結局は日頃からトレーニングして高い機材持ってる奴が強いじゃん。優勝するじゃん。」というやっかみの思いも生まれる。

本来は、その地域を親しむためのイベントだ。
それを「ポイント獲得」=「スピード出せるチームが有利」という〝評価制度〟にしているのでジレンマが生じる。

この問題点は、「突然 野菜の収穫ミッション」が発生したり、「いい写真ならベストフォト賞」があるなどライドハンターズなりの工夫をしている。

バランスが難しい問題だけど、「地域と触れ合って体感した時間」というものがサイクルツーリズムでは一番に据えられるものであり、それが妨げられる評価制度はこじれを生み出す。

例えていうと、大食い早食い大会で競いたいわけではないし、その人のペースでゆっくり味わっていい。食べられなかった料理は次の機会にとっておけばいいじゃない。

 

3. Cycle Around Japan ─ NHK World

外国向けプログラム「サイクル・アラウンド・ジャパン」 | via. NHK-World

Cycle Around Japan は “NHK World” という海外向けに日本ニュースやコンテンツを発信するプログラムのひとつ。

外国人目線で触れる日本文化は、当の日本人に取っても新鮮で魅力的に映る。そして自転車で旅する=生身で体感しながら日本を堪能している様を見ると、「あぁ こういうことが求めているスタイルなんだ」と説得させられる。サイクルツーリズムを体現している。

日本の 旅・紀行番組 って、NHK「小さな旅」から「ブラタモリ」「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(TV東京系列) など様々あるけど、外国人が制作する日本紹介映像ってコンテンツのクオリティが段違い。CycleAroundJapanは日本の制作クルーだけど。

サイクルツーリズム事業もこのコンテンツに学べる要素が多いと思って紹介しました。

本編は、Webオンデマンドやアプリから無料で視聴できる。たまにBS-4K,BS-プレミアムでも日本語吹替でオンエアしている。

 

NHK WORLD-JAPAN

NHK WORLD-JAPAN

NHK (Japan Broadcasting Corporation)無料posted withアプリーチ

 

 

4. ナショナル・サイクル・ルート

〝ナショナルサイクルルート〟は、国土交通省が定めたサイクリング環境に適した水準をクリアできると認定される。2019年9月から始まった。

その背景には、2016年に自転車活用推進法という法律が成立されたことに起因する。

「えっ そうなの!?」と初めて知る方も多いかもしれない。自分も初めて知った。サイクリストの中でも認知度が低いのでご安心を。

制定されるまでの経緯や裏事情は知る由もないけど、自転車愛好家で知られる元衆議院議員 谷垣禎一 氏 が制定に尽力した、と記載してある。
そんなわけで国の方から「チャリンコ活用していこうぜ!」というお達しがあり、チャリンコ法度はっとよろしく、各行政や自治体、そして国民にまで自転車活用の圧力プレッシャーが知らぬうちにかかっている。

公式は 〝GOOD CYCLE JAPAN という大枠が設けられ、サイクルツーリズムはその中の施策の1つ。
参考 知ってましたか?ジツはとっても大事な自転車活用推進法のお話TABIRIN(たびりん)

表舞台の裏側では、国土交通省に媚び売って、どうやって資金を引っ張ってこようか血生臭い画策がありそう。
“COOLJAPAN戦略”も資金の無駄使いがリークされてたし、誰かを肥やすための大義名分としていいように利用されなければいいけど・・・。

 

そんな流れから、サイクルツーリズムの主軸・基幹となることを期待して、ナショナルサイクルルートの認定が始まった。最初に認定されたのは下記3ヶ所。

  • しまなみ海道(広島・愛媛県)
  • ビワイチ (滋賀県)
  • 霞ヶ浦りんりんロード (茨城県)

ナショナルルートの認定を受けるには、国土交通省が定めた評価基準 がある。
これからサイクルツーリズムを展開する場合でもこの評価水準に準拠・目安となることが予想される。

評価はそれでいいのか?

ナショナルルートが初めて決定したときの報道をピックアップしたい↓
参考 国交省がしまなみ海道等3つの「ナショナルサイクルルート」を発表 ロゴのコンセプトは「和」 Cyclist サンスポ

愛媛県の中村時広知事は9年前に、高速道路を閉鎖して自転車に解放するサイクリングイベントを立ち上げた当時を振り返り、「国交省から『3時間だけ』の条件付きで開催を許可され、1分でも越えたら二度と開催できないといわれて県庁職員一丸となってカラーコーン撤去の練習を積み重ね、2時間59分56秒で成功を収めた。それが次なるステップへとつながった」とここに至るまでに地道な努力があったことを語った。

引用 ▶ サンスポ 国交省がしまなみ海道等3つの「ナショナルサイクルルート」を発表 (強調は引用者)

 

これはあえて取り上げてディスってるのかわからないけど、職権にものを言わせて、国土交通省が上記のような発言をするのはいかがなものかと思う。一番に優先されるのは「全体の安全」である。制限時間を重視するあまり安全を疎かにしては本末転倒。

結局組織は、上が定めた評価に従うことを余儀なくされる。だからこそトップは “適正な評価” というものをよく吟味してほしい。人は褒められるほうに育っていってしまうものだから。

 

5. 企業と行政がタッグを組んでフィールドを創る

台湾の自転車メーカー “MERIDA” の日本での独占販売権を持つミヤタサイクルは、静岡・伊豆半島にフラッグシップショップ「MERIDA X ベース」をオープンさせた。(※2020年7月に「株ミヤタサイクル」は「メリダジャパン株」に社名変更しています。)

この狙いは、新たな市場開拓・マーケット創造にある。

「しまなみ海道」発展に自転車メーカー「ジャイアント」が貢献しているように、
メリダジャパンも伊豆半島で、自転車活用を推し進めていきたい行政や観光事業に意欲的な建設企業、ホテル業者などとタッグを組み、スムースなサイクリング環境を実現させようと取り組んでいる。

つまりコーディネートだ。分断・孤立していた既存施設や地域を連携させることにより、観光客ゲストに対して整ったサイクリング体験を提供する。そしてユーザーを増やすことで自社製品の売上増加、地域全体の活性化に貢献など、ヴィジョンを描いている。

こういった自治体と包括提携する動きは、アウトドアブランドでも同調して見られる動きだ。
モンベル。スノーピーク。ゴールドウイン。
企業が行政とタッグを組みフィールド整備を手掛けて新たな顧客やマーケットを創造している。

Park-PFI 制度

県や自治体所有の公園を民間企業が開発する動きは、2017年 「Park-PFI」という従来の都市公園法が改正されたことで拡がりを見せている。

結局、行政に公園を管理させても、経営力や開発力が乏しく退廃させてしまうので、民間企業がマネジメント&特例措置で優遇させることで魅力的&賑わいある空間を作り出すことを目的としている。海外の公園活用法を参考に制度をブラッシュアップした。

ユーザー側からすればフィールドが整ってる環境の方が嬉しいし「あの企業やブランドがプロデュースしているなら行ってみようかな」そんな心理にもなってしまう。

 

宣伝や知名度がすべてではなけど、世はプロモーション狂乱時代。どこもかしこも再生数やPV、ツイート数など 影響力インフルエンサー  ・ネット受け に血眼/躍起になっている。

だけど、そういうベクトルだと飽和になってくるじゃないかと思っている。詳しくはラスト-総括へ。

参考 メリダブランドの一大拠点「MERIDA X BASE」が伊豆にできた理由Cyclist サンスポ

 

総括 ─ 豊かさの解釈が変わってゆく

「サイクルツーリズム」という新しい響きのコトバを唱えれば、これまでとは違う扉が開ける錯覚に酔いしれるかもしれないけど、それは元々私たちの生活に身近なところにある移動手段であり、日常の一部に溶け込んでいる。

自転車はあまりに庶民的すぎて、クルマと比較して褪せて映り魅力を感じ取りにくくなってしまったけど、ペダルを漕いで走り出せば違う景色を見せてくれる。

──ただ、わかった気になっていると何も見えてこない。

サイクリングで感じる “豊かさ” は、ほのかに囁きかけるようなたぐいの豊かさだと思う。

値段が〇〇万円するような豪華で派手な物質的豊かさもあるのは事実だけど、そういった“豊かさ”が自転車の魅力かといったら本質ではない

 

豊かさの質

外部との比較によって得られる幸福は、「地位財 “positional goods”という解釈がされ、あまり長続きしないと言われる。所得や財産、社会的地位、物質的豊かさなど。上には上がいて、競っていてもキリがないからだ。

反対に、他人が何を持っているかどうかとは関係なく、それ自体に価値があり喜びを得ることができるもの = 「非地位財」と呼び、長続きしやすい。(健康や愛情、自己成長、地域とのつながり、自主選択できる時間など)

「非地位財」はび」の思想に通じるところがある。

貧粗・不足のなかに心の充足をみいだそうとする意識。
閑寂ななかに、奥深いものや豊かなものがおのずと感じられる美しさ。

引用 ▶ 侘び寂び

同じ土俵ステージで競い合うのではなく、ベクトルそのものを変えてそこに在る喜びに気付き見出すこと。他人の評価ではない、自分の基準に重点を置くこと。

例えると、高級食材を使った豪勢な食事でも毎日続いたら飽きる。特別ではない、日常に身近な献立であっても私たちは豊かさを感じることができる

 

地域活性化や観光事業を考えていくと、他の地域と比較してオリジナリティを重視し、それが武器になると捉えがちだ。

だけど、ライバルに負けまいと際限なく何でも取り込んで、効率や利便性を追求していってパンパンに膨れ上がった結果、行き着く先は画一化になるだろう。

そういったインフレにおちいるより、私たち自身が自分たちの暮らし・いとなみに息づいている時間に気づけることができれば、何にでも楽しみを見出すことができるし、飽きることなく地域の移ろいを眺めることができる。理想論だけど。

そして自転車とは、そのかすかに漂う時間のレイヤーを感じ取ることができる良き相棒であり、可能性を引き出してくれる──

 

いろいろ能書きを垂れたけど、長い距離を自転車で走れば、その晩ぐっすり眠れるのは確実だ。

そういうところから入ってみるのもいいと思う。

そして 80km,90km,100km と走ることができたならそれ自体に自分の成長を感じ、その体験の中に、自然や地域との触れ合い、時間との接し方が含まれていることに気づけることだろう。

前編はこちら↓

地域のサイクルツーリズムを見渡す・考察する ─ 前編【サイクルモード2019】

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